CREATOR FILE Vol.05(Interview ver.)

LiveHouse Mag-Net

今直樹(こん・なおき)さん

 


 

「一発勝負の中でどれだけ良い音が作れるか」

 

音楽好きが一同に集い、会場全体が一体となるような昂揚感で溢れるライブハウス。華やかなステージの裏側には空間を創るスタッフの存在があり、弘前のライブハウス「Mag-Net(マグネット)」でサウンドエンジニアとして働く今直樹さんもそのひとり。「音響」という仕事との出会いを聞いた。

 

 

 

ライブハウスとの出会いは中学の頃。友人の親戚がやるというライブに連れられて、そこで大きな衝撃を受けたという。「音がすごく大きくて、その迫力に圧倒された。ライブハウスって非日常じゃないですか。あの空間が好きだった」と話す今さん。

 

 

高校時代は1980年代終盤から1990年代前半のバンドブームが到来。「当時はみんなバンドをやっていた。家の車庫や、りんご農家の小屋に楽器を運んで練習している人もいましたね」と当時を懐かしむ。今さんも「THE BLUE HEARTS」などのパンク・ロックバンドに夢中になり、ギターをはじめて友達とバンドを結成。自分たちの好きな曲を必死に覚えて練習を重ね、弘前のライブハウスに通う青春時代だったという。

 

ステージでライブをする楽しさを覚えながら、ある日ライブハウスのスタッフがやっていたPA(※)にも興味を持つようになる。「最初は面白そうだな、やってみたいなというただの憧れ。でも、将来はライブハウスの裏方として仕事ができないかとぼんやり考えていた」と今さん。高校卒業後は東京の専門学校に進学し、レコーディングや音楽理論などを学んでいたが、家庭の事情により地元・弘前で就職をすることが条件だった。
※Pablic Addressの略。音楽ライブなどで音を管理する音響設備の総称

 

 

「当時はライブハウスなど現場の仕事は東京でもあまり需要がなく、弘前で音響の仕事があるのか心配だった」と話す今さん。夏に帰省したとき、地元のライブハウスでお世話になっていた人に何か音楽の仕事がないか聞いたところ、新しくできたライブハウス「Mag-Net」を紹介される。「本当にタイミングが良かった」と話す通り、地元で念願の音響としての仕事がスタートした。

 

 

Mag-Netでライブの音響を担当する傍ら、週末は街のイベントも音響として入らせてもらい、勉強の日々。地元バンドのレコーディングも数多く担当するなど、バンドマンたちとの絆も深めていった。「今では地元のバンドはもちろん、盛岡や秋田からもライブやレコーディングに来てくれる」と話す通り、今さんの音づくりと音楽を通した交流によって仲間が増えていくという。

 

「音響で一番やりがいを感じる瞬間は?」という問いに、「ライブ中に良い音を作り出せて、演者もお客さんも満足できる音が出せた時」と今さんは語る。中学生の頃に出会ったライブハウスのように、「とにかく現場が好きで、一発勝負の中でどれだけ良い音が作れるかに集中している」という。

 

最近は弘前の大学生などもMag-Netで「ライブデビュー」することが多い。「まだサウンドについて何もわからない若い世代に1から教えるのも自分の仕事」という今さんは、「弘前発の音楽が盛り上がって地元だけじゃなく、外に向けて発信していける存在がなれればいいし、そのために自分もサポートしていきたい」と今後の意気込みも語ってくれた。

 

 

 

取材 文・写真:下田翼