CREATOR FILE Vol.06(Interview ver.)

OG-CHANCE

太田絵里子(おおた・えりこ)さん

 


 

突然のアイドルデビューからデザイナーへ、渡されたMacBookが転機に

 

鶴田町生まれのデザイナー・太田絵里子さんは2015年に「Original Design OG-CHANCE」を開業。津軽エリアを中心に企業や行政のロゴマークやポスター、アーティストのCDジャケットなどを手掛け、2018年にはデザイン業界の全国誌「デザインノート」に青森県のデザイナーとして紹介されるなど、ジャンルを問わず多くのデザイン作品を生み出している。「アイドルも経験した」という現職に至るまでの道のりは、まさにオリジナリティー溢れる絵里子さんらしいストーリーだった。

 

 

「いやぁ、もう大変だったんですよ、本当!」と笑いながら話す絵里子さん。デザイナーになるまでのストーリーを聞いていたはずが、いつの間にか「韓国でアイドルデビューさせられそうになった話」に変わっていた。

 

話は幼少期に遡る。「紙とえんぴつを持たせたら、何時間でも黙って絵を描いていたみたいです」と振り返る絵里子さん。「運動神経がとにかく悪くて、足は学年で一番遅いくらい。スポーツできる人が羨ましかった」と苦笑いしながらも、「手先は器用な方だった」と言う通り、粘土や絵を描く時間では毎回先生に褒められ、「作品を飾ってくれるのが嬉しかった」と話す。小学校や中学校でも、授業で作った絵画や版画はコンクールで毎回入選を果たし、体育館の舞台に飾る5〜6mの絵画を図工の先生と一緒に制作するなど、順風満帆にデザイナーへの道に進んでいると思いきや、状況は少しずつ変化していく。

 

好奇心旺盛だった高校時代ではいつの間にかペンを置き、アルバイトに勤しむ毎日に。「一応美術部には入りましたが…、完全に幽霊部員でしたね」と話す通り、もう趣味でも絵を描くことはなくなったという。その一方、ファッションに関心を持つようになり、将来はショップ店員などアパレルの道を考えるようになっていた。

 

▲現在は3児の母兼デザイナーとして忙しい日々を送る絵里子さん

 

冒頭のエピソードは高校生活の終わり頃。テレビの人気バラエティ番組が女性アシスタントを募集しているという話を聞いて、友達と一緒に面白半分で応募をしたところ、自分だけが書類審査に合格。流れのまま東京でオーディションを受けると、全国から殺到した応募の中で最終メンバーの6人(素人は絵里子さんだけ)に残ってしまった。さらに、番組のアシスタントのはずが、途中から韓国でアイドルを目指すプロジェクトに変わってしまい、気がつけば厳しい歌やダンスのレッスン、韓国語の勉強に追われ、毎日のように泣いていたという。「ダンスなんて一生できる気がしなかった」と語るように厳しいレッスンについていくことができず、最終的にはデビュー時のメンバーから外れて、青森に帰ってくることになる。

 

地元に戻ってからはアパレルショップ店員のアルバイトをしていた絵里子さん。その傍ら、エンターテイメントを通した街づくり・人づくりを目指す「弘前アクターズスクールプロジェクト」と出会い、地域貢献を目指すアイドルとして活動する時期もあった。その後はスタッフとしてプロジェクトを手伝うようになるが、ある日「ポスターを作ってみたらどうか」とスタッフからMacBookを渡されたことが転機になる。

 

「全く知識がなく、教えてくれる人が誰もいなかった」と話す絵里子さんは、本屋で参考書を買いに走り、1からのスタート。簡単なイラストの制作から始まったが、次第にデザインの面白さに気づき、のめりこむようになる。独学だけではなく、地元のデザイン事務所でバイトをしながら基礎知識を学び、毎日遅くまでMacBookと格闘する日々。持ち前のセンスと勉強量でデザインの実績を積み、気がつけばロゴ制作やポスター、フライヤーなど数多くのクリエイティブを任されるようになっていた。

 

▲過去に制作したロゴマーク(HPより)

 

 

▲過去に制作したポスターやフライヤー(HPより)

 

2015年8月には「デザインの仕事をマイペースにやってみようかな」と思い立ち、「Original Design OG-CHANCE」を立ち上げて独立。現在はクライアントワークのほか、地元・鶴田町では有志団体「つるた街プロジェクト」が手がけるイベントのデザインを担当、地元の大学生やデザイナー志望者向けにワークショップを行うなど、デザインにまつわる地域活性化のサポートや育成にも力を入れている。

 

▲「オリジナルのロゴマークを作ろう」ワークショップの様子

 

今の仕事のやりがいを聞くと、「頼られたり、任されたりするのって嬉しくないですか?」と話す絵里子さん。人に必要とされることがモチベーションとなり、さらに自分のデザインを喜んでもらえることが、また大きな力になるという。

 

「デザインのいいところは同じものを作るのではなく、毎回新しいものを作れること。『これじゃなきゃダメ』という考えのない自分にとっては、この仕事は向いているのかな」と笑顔で語ってくれた。

 

 

 

取材 文・写真:下田翼